菊地成孔が好きで、今もよく彼の音楽やラジオ(粋な夜電波)を聴く。
最近は、彼が90年代から00年代初頭までやっていたバンド「スパンクハッピー」がお気に入りだ。
特に、「岩沢瞳」在籍時のサウンドが、華美で空っぽな80年代の感じが出ていてよい。
本人は、ファッションショー時にモデルが合わせてウォーキングをする音楽(彼はそれをウォーキング・ミュージックと定義した)をベースにしたものだと語っていた。
けっこう昔のことになるが、菊地成孔のライブを、「ビルボード大阪」(当時は「ブルー・ノート大阪」に観にいったことがある。
確か5人くらいのジャズ・コンボだった。
官能的に輝くサックスの音色と、演奏の合間にシャネルの香水を宙に振りまく菊地成孔の手首が印象的だった。
演奏の合間に、隣にいた中年の男性に声をかけられた。
テレビ番組の制作会社に勤めていると言ったその人物は、やたらと饒舌に、菊地成孔がいかに素晴らしいアーティストであるかを私に語った。
特に拒絶する必要も感じなかったので、私は黙って彼の話を聞いていた。
演奏終了後、私たちは連絡先を交換して別れた。
その直後私は、タイに行った。
一人でバックパックを背負って、3週間ほど暑い国をまわった。
バンコク市内に、バックパッカーが集う街に「カオサン」ということろがある。
ある朝、カオサンのネットカフェにて、久しぶりにメールを開いた。
すると、例の男性から連絡がきていた。
短い謝辞のあと、「私が好きそうな」推薦アーティストが列挙されていた。
そしてそのリストには、200以上のアーティスト名が並んでいた。
少々面食らったが、私は男性に興味が出たので、帰国したら食事でもしませんか、と返信をしておいた。
しかし、それっきり連絡がこなくなってしまった。
あれからもう何年も経ってしまったが、何かの折に連絡が返ってこないかと思っている。
「食事の件ですが、念のため店をピックアップしました」などというタイトルで、長い長いリストが送られてくればとても愉快だ。
そのときは、一番オススメの店はどれですか、などという野暮な質問はしないでおこうと思う。