「ゲシュタルトの破壊と統合、そのスピード」

コーチング(coaching)にはゲシュタルト(gestalt)という概念がある。

いきなり余談だが、理論社会学(theoretical sociology)

にも同様の概念が重要なものとして扱われている。

といっても、理論社会学の枠組みの中では、ゲシュタルトという用語を使うわけではない。

定常システム(steady system)と呼ばれる。

この概念にはゲシュタルトと同様、「部分と全体が双方向的に織りなす全体」、「部分の総和は全体を超える」という含意がある。

定常システムという考え方は、70〜80年代に登場し、固まってきた考え方なのだそうだ。

心の学問が、行動主義(behaviorism)というパラダイムから、認知科学(cognitive science)関数主義(functionalism)へと変わってきたように、理論社会学の分野でも、均衡システム(balance system)から定常システムのパラダイムシフトがあったようだ。

 

さて、なぜゲシュタルトという概念がコーチングの中で用意されているのかと言えば、人間のマインド(mind)をゲシュタルトとして表現したいからだ。

部分と全体が双方向的に関わり合いながら、マインドを形成している。

そのマインドを変える、あるいは正しく使うことで、ゴール(goal)へと進んでいくことができる。

そのためには、過去接した情報の積み重ねによって出来上がった現在のゲシュタルトを破壊し、ゴールに向かえるように再構築しなければならない。

 

どのように破壊するのかと言えば、過去の情報との矛盾する情報を入れることだ。

コーチングでは、現状を超えるゴール設定(goal setting beyond the status quo)によってその機能が果たされる。

認知的不協和(cognitive dissonance)という概念がある。

人間は、二つ以上の矛盾する認識を維持できないという考え方だ。

認知的不協和があるため、創造的無意識(creative subconsciousness)が働き、矛盾した情報が入ってきたとしても、最終的にはなんらかの整合性を持った全体として安定状態に収束する。

このプロセスを、ゲシュタルトの破壊と再構築と考えることができる。

 

今回私が注目しているのは、ゲシュタルトの再構築までのスピードだ。

矛盾する情報が入ってきたとして、その情報もゲシュタルトの自然な一部として取り込む形に再構築するまでの時間は、何によって決まるのだろうかという問題意識があるのだ。

そこで、文章を書きながら考えていたのだが、ひとつはエフィカシー(self-efficacy)が関係しているのかもしれないと気がついた。

エフィカシーとは、「ゴール達成のための自己の能力の自己評価である」とコーチングでは定義されている。

確か、アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)によると、エフィカシーが高く維持できている人は、困難な出来事に直面しても回復力が高いという記述があったような気がする(出典がさだかではないので確認する必要がある)。

これが正しかったとして、ゲシュタルトの破壊が精神の一時的な困難と考えれば、エフィカシーの高さが再統合までのスピードを決定する、と言えるかもしれない。

ただ、何か別の考え方もあるような気がする。

しばらく考えてみようと思う。