最近のマイブームは、渋谷系の音楽だ。
渋谷系とは90年代に流行した、渋谷の特定地域を発祥とする音楽群の総称だ。
ジャンルとしてというよりも、一つのムーブメントとしての呼称であると考えたほうがよいようだ。
その証拠に、渋谷系に内包されるジャンルは実に多岐に渡っている。
とはいうものの、一般的には、フリッパーズギターなどのネオアコのイメージだろう。
実は私は、90年代にはあまり渋谷系の音楽を好んで聴いてはいなかった。
そのころも音楽は好きだったが、どちらかといえば、パンクやハードコア、メロコア、スカといったストレートでアッパーな音楽が好きだった。
文学や哲学、アニメなどは、比較的と「内にこもる」ような作品が好きだったのだが、音楽はそうではなかった。
過剰で、エネルギッシュで、いろいろなものを吹き飛ばしてくれるようなサウンドに心惹かれていた。
とはいうものの、ビッグヒットを飛ばした小沢健二(フリッパーズギターの片割れ、もう一人は小山田圭吾)の活躍や、あるいは、音楽以外のカルチャー全般の中にちらちらと登場する渋谷系というワードなどを通し、なんとなく気になっていたのは事実だ。
そういう意味では、隣のクラスの気になる女の子みたいな位置付けだった。
そして、声をかけずに卒業してしまった。
なぜ今になって渋谷系の音楽を掘り始めたのかは、よくわからない。
たぶんここ数年の世の中の全体が、90年代のリバイバルみたいな方向へ向かっているからだと思う(実際、ファッションの今シーズンのトレンドは明らかに90年代を反映している)。
理由はともかくとして、いま私が90年代の音楽に親しむ感覚には、なんともいえないものがある。
ずっと心に引っかかっていたつかえがとれるようなカタルシスもあるし、自分が成長し、大人になったという感慨もある。
体験すべきだったことを永遠に損なってしまい、それでもなんとか残骸をかき集めて復元しようとしている、そんな感覚もある。
そしてまた同時に、そういった種々のノスタルジーを超克してしまいたいという欲求もある。
これは私が、コーチという特殊な職業に従事しているからかもしれない。